ラプンツェル



ラプンツェル ラプンツェル お前の髪をたらしておくれ


森の奥の塔で僕は彼女を見つけた。
それはそれは高い塔。
窓一つしかないその塔の中に彼女はいた。
とても美しい娘だった。

年老いた老婆が彼女を閉じこめていたのだ。
塔に入る術はただ一つ―――

―――ラプンツェル ラプンツェル お前の髪をたらしておくれ

呪文のように老婆が言うと、娘は長く伸びた自分の髪を窓の外へと差し出す。
地面まで到達したそれを老婆は上るのだ。
そうして日に一度、老婆は娘のもとへ行き、身の周りを見てやるとまた髪を伝い森の中へと消えていく。

しかし、ラプンツェルを見つけたのは僕だけではなかった。
彼女を見つけてしばらくして、茂みの中の男に気づいた。
彼は老婆の呪文を聞き、老婆が去るとそれを口にする。
長く伸びた金の髪を娘は地面へと垂らした。

僕は見た。二人が互いに惹かれ合うのを。
娘にとって彼は、初めての老婆以外の人間だった。そう彼女が言っていた。
僕はこの男が現れた事で彼女の事をいろいろ知る事が出来た。
幼い時からこの塔に居続け、外部から隔離された哀れで美しく、そして、幸せな娘……

しかし、彼女の幸せはここで止まった。たとえ彼女は幸せだと思おうとも。
哀れな娘が男に惹かれるのは必至だった。

そうして、老婆が居ない時間を二人は幸せに過ごした。
僕には決して気づくことなく。
悪趣味である事はわかっている。でも僕には彼女が気になったし、こうしている事自体に罪悪感など無い。
だって、僕は彼らにとっていない物なのだから。

娘はまるで赤子の様な心の持ち主だった。だから幸せなのだ。
しかし、男と過ごすうちに娘は女へと変わっていった。
無垢な心に血を垂らし、老婆の求めた彼女は次第に消えていった。


「―――おばあさまが下さったこの服が最近小さいの。どうしたのかしら?」
娘は老婆にそう告げた。

僕は思わず頭に手を置き、顔をしかめた。
彼女は無垢な娘だった。そして無知だった。だからその一言が何を意味するのか知らなかったのだ。

老婆は身体をわなわなと震わせ、信じられないものでも見るように娘に目を向けた。
「お前!裏切ったな!」
老婆は怒り狂った目で娘を責め、手にしたナイフで長く伸びた彼女の髪を切り落とした。
「おばあさま……」
震えた瞳で娘は老婆を見た。
老婆はおびえた娘を抱えると窓から飛び出した。
慌てて外を見ると疾風のような早さで老婆は飛んでいった。

あいつ人間じゃなかったのか……?


誰もいなくなった塔に僕一人。
僕は床に散らばった髪の残骸を見つめた。
切り落とされたばかりのそれは黄昏に焼かれ輝いていた。


しばらくして老婆が戻って来た。
散らばった髪を集めると急に僕の方に視線を投げた。
「お前がいながら何故あの娘をあんな身体にしたんだ!」

人じゃないのなら僕の事に気づいていたか。

「彼らは僕の存在に気づく事は無いんだ。無理に決まってるだろう?」
「私が汚れから遠ざけてきた娘だというのに……」
皺だらけの顔の皺をより一層増やして老婆は苦々しくこぼした。
「また、新しい娘を見つけてこなければ」
「じゃあ、僕はもうここには用は無いから」
「もともとお前など呼んではいない」
「だろうね」

僕は塔を飛び出した。

―――ラプンツェル ラプンツェル お前の髪をたらしておくれ

丁度その時、男が来て呪文を唱えた。
「お前が汚した娘はもうここにはいない!」
窓から顔を出した老婆が男をにらみつけると、血の気の引いた顔で男は走り去っていった。



―――ラプンツェル ラプンツェル お前の髪をたらしておくれ

娘にはもう、呪文は届かない。
彼女はもはや唯の人になったのだ。


新たな姫を捜して僕はまた空を翔た。



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精霊シリーズ第2弾。
グリム童話を精霊視点で書くのはとても楽しいと実感しました。
精霊の彼(未だ名前は無し)視点の為原作で描かれている部分はカットしちゃったりしてるのですが;
白雪姫では結婚式すらしないし…汗
ラプンツェルもどうやって老婆の元に来たとか、捨てられた後どうなったとか触れずに終わってしまいました。
彼の放浪の一場面なので、目を瞑ってやって下さい(笑)

「ラプンツェル」は子供の頃から恐ろしながらも好きでした。
何度も使っている有名な一説はまるで呪文みたいじゃないですか?
神秘的な物に惹かれる子供だったのです。(今もですが)
子供ながらに髪なんかに人が捕まって上ったらさぞ痛いだろうなと思ってましたが(笑)

(2006.6.16up)