かぐや姫
ほら空を見上げて、そのまま深く堕ちてみようよ?
月も優しく嗤ってるでしょ…
それはまだ風吹く秋で、僕はただの少年だった。
僕は学校の帰り道、見たことのない物を見つけた。
「あれ?こんな所に竹なんてあったっけ?」
わりと大きいな公園のすみに数本の竹が植わっていた。
五年間この道を毎日通う僕がそれに気づかないわけなかったし、しかも今日は土曜日で、朝はこんな物無かったんだから…
だいたい、竹が生えるのは春じゃなかったっけ?
そんなことを考えながら僕は家に着いた。
鍵を開けて家に入ってから僕はコップにジュースをそそぎ、あの竹のことを考えていた。
―変なの…。
「あっ、やば!」
ふと目に入った時計を見て僕は自分の部屋に駆け込んだ。
今日は友達の竜矢の家で遊ぶ約束があったんだ。
玄関の鍵をかけてから竜矢の家を目指す。
もうすぐあの公園。そこにはやっぱり竹があった。
どうしても、不自然な竹に目がいってしまう。
―あれ?誰だろ?
竹の横には見たことのない、僕と同い年くらいの女の子が立っていた。
―可愛い子だなぁ〜…どこの子だろ?
そんな事を考えていると彼女は僕の方へ近づいてきた。
「この辺りの子?」
その声は彼女の外見にぴったりな可愛い声だった。
「う、うん。その道を右行ってすぐだけど…」
僕は自分の家の方を指さし、彼女を見た。
「君は?」
「あたし?あたしは香耶。あなたの名前は?」
にっこり笑ったその顔はとても可愛かったが、僕は「どこの子」かときいたつもりだった。
「僕は雅斗」
とっさに答えると香耶は微笑んだ。その時、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「―ま〜さとぉ〜…」
突然声が聞こえた。篤樹の声だ。
「あ、あつき!」
篤樹が僕の方へ走ってくる。
「あ、ごめんあいつ僕の友達で…あれ?」
振り向くと香耶はいなかった…。
「ほら、竜矢待ってるぜ!」
篤樹に呼ばれ僕は、まいっか、と軽い気持ちでその場を去った。
次の日、僕が近くのコンビニに行く途中、あの公園に香耶はいた。
「雅斗」
そして香耶はかわいい笑顔を僕に見せた。
「昨日はごめんね。あたし人見知りなの…」
じゃぁ、僕は?と、思わずききそうになったがやめておいた。
「雅斗は優しそうだったから…」
僕の心を見透かしているかの様に香耶は微笑んだ。
どこか吸い込まれそうな彼女の笑みに僕は心奪われた心地だった。
それから毎日のように僕らはこの公園で遊んだ。
香耶はよく『かぐや姫』の話をした。
「かぐや姫はね、本当は月に帰りたかったの。でも大好きな人と離れたくなかったんだよ」
話をする香耶の瞳は濃く…黒く輝いていた。
「ねぇ!雅斗とあたしはずっと友達だよね?」
「うん!」
―――本当に香耶とずっと一緒にいたかった…―――
―香耶、今何してるかな?
昼休み、僕は机で頬杖をついていた。
「オイ。雅斗、サッカーしねーのか?」
―学校かな?あ、香耶っていくつなんだろう…
「チッ、行こうぜ!」
僕の耳に竜矢の声は届いていなかった。
ある日、僕は篤樹と帰っていた。
もうすぐ公園にさしかかる。篤樹は次の角で曲がるから、香耶がいたらまた遊ぼう、と僕は思っていた。
「あっ」
―香耶が公園から手を振ってる!
「は?どうした?」
「ごめん友達がいるから!じゃーな篤樹!」
僕は香耶の元へと走った。
「友達?…って誰もいねーじゃん、オイ雅斗!」
篤樹の声なんて僕には聞こえなかった。
「友達はいいの?」
香耶が申し訳なさそうに僕を見る。
「いいの、いいの!僕には香耶の方がたっ…」
香耶が僕を疑問そうに見た。
―"大切"なんて、まるで告白みたいじゃん…
僕はそのまま言葉を呑みこんだ。
「…あたしの方が?」
「か、香耶といた方がずっと楽しいもん!」
僕は香耶を見てにっと笑って見せた。何とかごまかせただろうか?
香耶はにこって答えてくれた。
「オイ雅斗。お前何で最近オレらと遊ばねーんだよ!」
数日後、ここ最近つき合いの悪かった僕に竜矢達はついにキレた。
いつの間にか僕はクラスで一人になろうとしていた。
「別に…ちょっと用事が…」
「用事って何だよ!公園に一人でつっ立ってんの見たんだぞ!」
「え、僕一人で?」
「他に誰がいんだよ!」
―そんなはずない。だって僕が公園に行くと、香耶はいつも待っててくれた…そうか!こいつら僕が羨ましいんだ!僕があんなに可愛い香耶と一緒にいるのが!それで…。
"何て卑怯な奴らだろう!"
僕は背負ったランドセルを握りしめ、そのまま学校を出た。
―あんな卑怯な奴らだなんて思わなかったっ!
"雅斗、あたし達ずっと友達だよね。"
―僕には香耶がいる…香耶がっ!
「雅斗?」
気がつくともう公園まで来ていた。
僕は切れた息を整えながら香耶を見た。
「どうしたの?そんなに息を切らして…」
香耶は心配そうに僕を見た。
「う、うん。」
竜矢達の本性に気づき、そんな奴らと友達だったと香耶に知られたくなくて、僕は曖昧にうなずいた。
「大丈夫。あたしはずっと雅斗のそばにいるわ」
香耶は僕に微笑みかけた。
香耶はいつも、僕の心が見えるみたいに優しく僕の心にしゃべりかける。
そんな香耶の笑顔をずっと見ていたいと思った。
僕らは公園わきのガードレールに座っていた。
「見て雅斗。今日は満月よ」
香耶は東の空に浮かぶ赤い月を指さした。
「本当だ。きれいだね」
「…かぐや姫はね、早く月に帰りたいの。でも、大好きな人と、雅斗と離れたくない」
香耶は僕を見て、僕は香耶を見ていた。
「一緒にいたいよ。雅斗…」
彼女は僕を抱きしめて、僕も香耶の背に手を回した。
「…一緒に帰ろう?」
僕の答えはもう、決まっていた…。
「…香耶…」
"夢心地"それが僕の、最後の記憶だった。
ほら手をのばして、ずっと放さないで。
あなたとあたしの永遠の世界へ…今、逝こう。
"ねぇ…雅斗…"
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高校の文化祭で発行した部誌の為に書いたもの。
月と太陽の2冊を発行。のうち月担当だったのでかぐや姫。(単純)
実際はかぐや姫じゃなくてバグのつもり。又は夢魔。つまり人じゃないんですよ。
黒い内容好き。(爆)
(2004.12.1up)